障害者雇用を知る

【炎上覚悟】農福連携の問題点を考える。【障害者雇用率ビジネスには要注意!!】

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最近、うちの就労移行で農業関係の就職に興味を持たれている方がいます。農福連携とよく聞くので、ぜひ就職してもらいたいと思っています。

農業の仕事自体はとても良いものですが、農福連携をうたい文句にしている事業所には気をつけて!農福連携は実は良いことばかりではありません。

農福連携は近年トレンドになっているテーマです。その名の通り、農業と福祉を掛け合わせた造語で、それをうたいもんくにした、農業関係の求人も増えてきています。

しかし、中には仕事としての質が保たれていない求人もあるという問題点が浮き彫りになりつつあります。

今回は炎上覚悟で、そうした形だけの農福連携モデルの問題点について、取り上げていきたいと思います。

この記事を見れば知ることができること

  • 障害者雇用における農福連携とは
  • 農福連携をしていて問題点のある会社の特徴
  • 問題のある農福連携企業への就職を避ける方法

それでは一つずつ見ていきましょう。

障害者雇用における農福連携とは

障害者雇用におけるにおける農福連携はどういったものを解説します。

まずは、農福連携の定義についておさらいします。

農福連携とは、障害者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組です。
農福連携に取り組むことで、障害者等の就労や生きがいづくりの場を生み出すだけでなく、担い手不足や高齢化が進む農業分野において、新たな働き手の確保につながる可能性もあります。

農林水産省

主に障害者が農業分野で活躍することで、障害者にとっての就労の場づくり、農業主にとっての働き手の確保につながる取り組み全般を農福連携と指すことがわかります。

では障害者雇用ではどのような農福連携が行われているのでしょうか?

NPO法人貴の郷さんのキクラゲ販売を例に挙げてみます。こちらは、企業や個人事業主からの依頼を受けて、法人内のB型・A型事業所の事業として農業活動を行っています。

生産されたキクラゲは、大手外食チェーンに納入されています。記事によると、就労移行の訓練プログラムとしても活用されており、企業×福祉×農業のかけあわせとして、一つのモデルケースとなっています。

また、B型やA型以外にも、事前に企業が借り上げを行っている農場に、障害者雇用枠として勤務をしてもらう形態が、近年急拡大をしています。

CTCひなりは、伊藤忠テクノソリューションズの特例子会社です。

生産農家と連携を行い、特例子会社の事業として農作業を行っています。生産農家の方から常に指導を受けられる環境を整備しています。農作物は親会社を通じて、贈答品としてグループ内にて利用をされています。

福祉事業者だけでなく、企業が直接農家とコンタクトを取って、企業内の障害者雇用として確立するモデルは今では珍しいものではなくなってきています。

【大前提】ほとんどの農福連携モデルに問題点は無い

農福連携最高じゃないですか!問題点なんてあるんですか?

ほとんどの農福連携企業・福祉事業所に問題点は無いですよ!

ほとんどの農福連携モデルを取っている企業や福祉事業所に問題点はありません。

ではなぜ今回のような記事を書こうと思ったか?

それは、「農福連携」のクリーンなイメージを逆手にとって、農福連携モデルをコンサルタントする企業が増えたからです。そういったコンサル企業の一部には、仕事と言えるか疑問なほど、質の悪い業務体系を提供している企業が含まれており、福祉関係者の中で問題視されています。

農福連携のコンサルタントってどんなことやっているんですか?パッとイメージしづらいです。

一般的な農福連携モデルと、コンサル企業が介在しているモデルで分けて解説していきます。

一般的な農福連携モデル

一般的な障害者雇用における農福連携モデルは以下の通りです。

先ほどのCTCひなりのように、企業が生産農家の貸し出し交渉を直接行い、雇用した障害者に農地にて働くモデルです。障害者は農作業未経験者が多いため、農家側が適宜指導に当たります。

できあがった農作物は親会社などを通じて、社内外に供給・販売がされます。

こちらのモデルでは、指導体制が構築されやすいだけでなく、生産した野菜は会社の販売物としてマネタイズされるため、企業の経済活動にも貢献していると言えます。

コンサルタントが介在している農福連携モデル

続いてコンサルタントが介在している農福連携モデルについて紹介していきます。

農福連携においてコンサルタント企業が絡んでいる場合は雇用の仕組みからして通常とは異なります。

おおまかに言えば以下の流れで成り立っています。

コンサルタント企業が介在している農福連携モデルのスキーム

①コンサルタント企業が農家から農地を買い取り、就業場所を確保する

②農福連携を考えている企業に対して、農地をレンタルする(基本的に複数の企業が合同利用)

③農場で働いてもらう障害者と農場サポーター(呼び方は企業によって異なる)をコンサルタント企業が採用する

④採用した障害者+農場サポーターをコンサルタント企業がどこのレンタル企業の所属になるか割り振る(コンサルタント企業の所属にはならない)

⑤コンサルタント企業がレンタル企業から農地のレンタル料・採用コンサル料をもらう

コンサルタントが増えている背景として、障害者雇用率の存在があります。

農福連携という形で障害者に農場で働いてもらえば、本業で障害者を雇用しなくても、雇用率を満たすことができます。

業務の切り出しに消極的な企業であればあるほど、外部で雇用管理をしてくれる農福連携モデルに傾倒しやすくなります。コンサルタント企業は、農地のレンタル、コンサル料で利益が総取りできます。

おまけに、人件費はレンタル企業持ち、農業は典型的なストックビジネスであるため、こうしたコンサルタント企業が増えるのも自然な流れと言えます。

コンサルタント企業による農福連携が増えると一体どうなるの?

パッと思いつく限りでもこんなにあります。

コンサルタント企業による農福連携の問題点

  • 出荷された野菜が市場に還元されているのか不透明
  • 障害者が本業に関われていない
  • 企業が障害者の業務の切り出しを考えなくなる
  • 仕事量の捻出が出来ていない
  • 障害者が所属企業を選べない

ちなみに、農業に限らず、安易な雇用率をエサに障害者を雇い入れるビジネスを「障害者雇用率ビジネス」と呼称しています。

障害者雇用率ビジネスに関しては、毎日新聞の山田記者が詳しく取り上げられています。

山田記者は親族に障害を持たれている方がおり、上記のような農園ビジネスに記者・家族目線から、警鐘を鳴らしています。ぜひ一度見てみてください。

障害者と関わるのは面倒? 外注ビジネスで露呈した「社会の本音」

次のセクションでは上記5点の問題点を一つずつ解説していきます。

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農福連携で問題点がある会社の特徴

それでは、農福連携で問題点のある会社の特徴を解説していきます。

問題点① 出荷された野菜が市場に還元されているのか不透明

1つ目の農福連携で問題点のある会社の特徴は、出荷された野菜が市場に還元されるのか不透明な点です。

コンサルタント企業が介在している場合、それぞれの企業に所属している障害者が、同じ農地で働くことになります。本来はそれぞれの企業で、どのような販路で農作物が市場に還元されるかが明記されているべきですが、どこにも記載はありません。

コンサルタント元も、「どんな大手企業が農場を利用してもらっているか」のPRばかりで、どこに供給しているかの情報は圧倒的に不足しています。

仮に市場供給の意思があったとしても、複数の企業所属者が一つの製品製造(農作物)に関わるわけですから、売上の分配や販路開拓の許諾をどのようにするかは、コンサルタント企業の一存では決めにくいでしょう。

農地をレンタルしている企業も、そもそも雇用率を満たすことが利用背景にあるため、農作物に本質的な価値を見出しているとは言い難いです。

つまり、ビジネスモデル上、そもそも市場に還元がされにくい農福連携モデルになっています。

せっかく自分が作った野菜がどうなるかわからないというのは、そもそも雇用のあり方としては大きな問題と感じます。

問題点② 上司にあたる人物が別会社所属

2つ目の農福連携で問題点のある会社の特徴は、上司に当たる人物が別会社所属の場合がある点です。

コンサルタント企業が介在している農福連携モデルの場合、所属している農場のサポーターが自分と別会社所属のケースがあります。

それだけでなく、サポーター採用が追い付いていない場合、農場に自分の上司に当たる人が不在なんてこともあり得ます。

上司が別会社所属では、一体感も何もあったものではありません。自分が会社に所属している感覚が薄くなってしまう問題点は無視できません。

また、上記の取り扱いに加え、親会社の本業から遠ざけることによって、障害者が「自分は会社に必要とされていない」と思ったとしても決しておかしくはありません。

結果的に、健常者と障害者の共生社会を遠ざけることにもつながる、重大な問題点があります。

問題点③ 企業が障害者の業務の切り出しを考えなくなる

3つ目の農福連携で問題点のある会社の特徴は、企業が障害者の業務の切り出しを考えなくなる点です。

この点は深く説明しなくてもわかるかと思います。

企業は「農場に外注すれば雇用率は満たせるんだ」と味を占めてしまえば、それ以上業務の切り出しを考えなくなります。

障害者雇用においては、どんな企業も、はじめは障害者という「人」と関わるよりも、雇用率という「数字」と向き合うことから始まります。農業への外注が主流になると、楽に「数字」の問題を片付けやすくなります。

「あ~、障害者を本社で雇い入れるなら外注先で働いてもらった方が楽だな、仕事の切り出しをする必要もないし」

こうした障害者の雇用を外注する思考がメインストリームになると、業種問わず、同じオフィスで健常者と障害者が働く文化が崩壊していく恐れがあります。

自分には関係のないことと思わず、問題点を把握しておくべきでしょう。

問題点④ 仕事量の捻出ができていない

4つ目の農福連携で問題点のある会社の特徴は、仕事量の捻出ができていない点です。

統計的なデータが出せないのが口惜しいですが、私の所属するセンターでも、ほとんど仕事をすることがなく、休憩時間の方が多いと話す相談者が存在しています。

新型コロナの緊急事態宣言が明けても、「感染予防」と称し、自宅待機期間が間延びしている方もいます。

なぜそのような事態になるのかを考えたところ、結局作成する農作物をどこに販売するわけでもないので、農場側は無理に出勤させる必要が無いんですよね…

当然、販路が無ければ仕事量の捻出もおろそかになるので、暇な時間が出来てしまうわけです。働く場と人を用意さえすれば、コンサルタント元からすると、すでに目標達成になってしまっているんです。

仕事としてそもそも確立できていると言えるのか疑問ではあります。

問題点⑤ 障害者が所属企業を選べない

最後の農福連携で問題点のある会社の特徴は、障害者側が所属企業を選べないという点です。

所属先をコンサルタント側や所属企業の裁量で選んでいくって、職業選択としては結構まずい問題に感じます。仮に障害者側が選べるとしても、選択のしようがないと思います。

だって所属会社の人間と顔を合わせることは、入社前も後もありませんからね(農場サポーター除く)。

農業は仕事の特性上、知的障害の方が多くなる傾向にあります。彼らに所属先の会社がどこか聞いても答えられないんです。契約の際の字面でしか所属企業を見る機会が無いですからね…

コンサルタントや農地をレンタルする企業に問いたいですが、自分の所属している会社がわからないまま働いてもらうのって悲しくないですか…?

障害者・家族・企業のリテラシーを高めるのが重要

農福連携で問題点のある会社の特徴を5点紹介してきました。農業のクリーンなイメージを隠れ蓑に、ビジネス展開をしている企業には、就職を勧めたいとは思えないのが正直なところです。

念押しして伝えたい点として、農福連携モデルに対して、障害者・家族・企業全体のリテラシーを高めるのがとても重要ということです。

でも本人が就職したいと言っている場合はどうすればいいの?

最終的には本人の意思が優先されるべきだと思います。

残念ですが、どんなに農福連携で問題点のある会社があっても、本人が就職を望んでいるなら、止める権利は家族も含め誰にもありません。

私も支援員としてメリットとデメリットは伝えますが、「辞めるべき」と言うのは支援者のエゴになるため、今後も言うつもりはありません。

事実、一般企業で働けない障害者にとって、農業が雇用の受け皿になっている実情は有ります。現実問題、働き口として助かっている人もいるのは事実です。

障害者自身がデメリットを承知の上で働くのであれば、それは一つの選択肢だと思います。後悔しない選択をするためにも、農福連携自体へのリテラシーを高めておくに越したことはありません。

企業に関しても同様です。しっかり農福連携に関してのリテラシーを高め、まずは自社内で雇用できないかを検討すべきかと思います。

福祉の世界って企業が思っている以上に狭いです。企業が安易な農福連携をしていると、地域の就労支援機関から足元を見られ、採用段階でも悪い意味で注目されがちになります。

企業担当者が障害者雇用のリテラシー向上の参考としては、以下の記事をご覧ください。

障害者雇用の企業担当が知るべき雇用力が身につく4つの鉄則【知識より向き合い方】

問題のある農福連携モデルの企業を避けるには支援機関を活用しよう

もし問題のある農福連携モデルの企業を避けたいなら、支援機関をぜひ活用しましょう。

というのも、すべてのコンサルタントが介在している農福連携モデルが危ないわけでなく、質の良い企業とそうでないところが入り混じっているからです。個人で善し悪しを見極めるのは至難の業です。

そのため、地域の障害者就業・生活支援センターなど、地域の実情を知っている支援機関に相談するなどして、実態を教えてもらうのがオススメです。

特に、障害者就業・生活支援センターでは全国的な就業ネットワークの場で、度々、農福連携モデルの問題点は取りざたされています。障害者雇用率ビジネスのことを知らないということはまずありえないでしょう。

興味のある方は参考にしてみてください。

障害者就業・生活支援センターとは障害者雇用の何でも屋!働くを楽にするためのサービス内容を総まとめ!

まとめ

  • 農福連携モデルには企業が農家と直接交渉するモデルと、コンサルタント企業が介在している場合がある
  • コンサルタント企業が介在している場合、上司が別会社所属、障害者が所属企業を選べないなどの問題がある
  • 障害者以外に関係者全員がリテラシーを高めて、安易な農福連携モデルに手を出さないことが大事

いかがでしたでしょうか?

くれぐれも誤解しないでほしいのは農福連携が悪いというものではありません。一部の企業が農福連携モデルを利用して、雇用の質が保たれなくなっている現状に危機感を感じてほしく、今回の記事を執筆しました。

もし自分自身や関係者が農業に興味を持っていたら、今回の記事を参考に注意深く企業の体制を確認するようにしてみてください。

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