うちの子が知的障害なんだけど、就職ってできるのかな?できれば一般企業で働いてもらいたいんだけれど、できるのか不安で…
知的障害でも就職している方は毎年何人もいますよ!特に軽度知的障害の方は、仕事を一度覚えれば、戦力として計算できる人材として企業から大人気なんですよ。
ずばり結論から申し上げると、軽度知的障害の方であっても一般企業への就職は可能です。
障害者雇用率が2021年3月から2.3%に引きあがり、能力が高い軽度知的障害は企業側からすれば喉から手が出るほど欲しい人材です。
今回の記事では、そんな軽度知的障害の一般就労について、以下の内容をお伝えしていきます。
・軽度知的障害者の特徴を整理
・軽度知的障害者に向いている業務
・軽度知的障害者が働く上で注意すべきポイント
・軽度知的障害者が働くことでもたらすメリット
目次
軽度知的障害者の特徴を理解しよう
さて、軽度知的障害者に向いている職種や職場内外での配慮点を語る上では、障害定義や特性について理解する必要があります。
おおむねIQ51-70の範囲をさす

知的障害は、知能検査結果による算出されたIQ値をもとに診断される障害です。
検査は主にウェクスラー知能検査が用いられます。ウェクスラー知能検査は3種類あり、成人はWAIS、児童はWISC、幼児はWPPSIが用いられます。
軽度知的障害はおおむねIQ値51~70の範囲をさします。知的障害の診断を受けた方は障害者手帳(療育手帳)が可能となります。軽度知的障害はB、B-2、4度といった障害等級となりますが、呼称は各都道府県によって異なります。
なお、知的障害は幼少時に診断を受けている印象を受けがちですが、診断タイミングは人によって大きく異なります。
幼少時に知的障害の診断を受ける方もいれば、知的ボーダーラインの方は、中学3年生時に特別支援学校への入学試験を受けるために初めて診断を受けるという方もいます。
なかには、自分が障害を持っていることを知らずに、成人してから療育手帳を取得するという方もいます。
なお、療育手帳は知的障害者が取得できる障害者手帳の一種です。以下の記事で詳しく特集しています。概要や取得方法を知りたい方はぜひ参考にしてみてください。
→療育手帳とは何かを簡単に説明します!知的障害者にメリット満載な障害者手帳です!
できない障害ではなく、見通しが立たない障害
え?うちの子は中度知的障害なんだけれど、就職は難しいのかな?
こんな不安を抱える方もいるかもしれませんね。
大丈夫です!障害が重い=就職できないということではありません。中度知的障害以上でも一般企業で大活躍している方は数多くいらっしゃいます。
誤解してほしくないのは、知的障害は「知的に遅れがあるから、仕事ができない障害」ではありません。「臨機応変な判断や将来の見通しがつかない判断能力の障害」であるということです。
裏を返せば、中度以上の知的障害者でも判断がつく作業手順や報連相の基準を示してあげれば、しっかりと働くことはできます。

知的障害者のなかには、健常者より手先が器用な方や集中力がある方もいます。仕事と直接関係はないですが、、親よりも金銭管理が得意な知的障害者もいます。
私が関わったことがある人では、自身で資産運用(株や金投資)を行っており、私よりもはるかに多額の金融資産を持っている知的障害者すらいました。
要は、強みを伸ばせる職種を選び、弱みはどのようにカバーしていくかを明確にすれば、長く働き続けることもできるということです。
軽度知的障害者に向いている業務
それでは次に、軽度知的障害者が向いている業務を考えていきます。
ルーチン化できる仕事
軽度知的障害者はルーチン化できる仕事だと能力を発揮しやすい傾向にあります。
例としては以下の通りです。
<清掃業務>
業務内容:高齢者施設内の共有フロア、居室内の清掃作業
配慮方法:チェックリストを用いて、清掃をする居室・フロアの順をチェックできるようにする。しっかり清掃できたどうかの基準も写真を活用して視覚化し、単独で業務を行えるようにする。
<事務作業>
業務内容:エクセルファイルへのデータ入力、書類のファイリングなどの庶務業務
配慮方法:見本例としてデータ入力文書ファイルを用意しておく。ファイリング方法は見本例を写真で視覚化するだけでなく、慣れるまではモデリング(見本提示)を行い、体で慣れるようにしていった。
「清掃はキレイの基準を説明しにくいから向いていない」「事務職などは知的障害者にはできなさそう」というイメージが先行している方もいるかもしれません。もちろん、向き不向きはあるので、全員にあてはまるというわけではありません。
しかし、例の通りにルーチン化することができれば、知的障害者でもこなすことができる可能性は大いにあります。
特に企業担当の方に知っておいてほしいのは、職種でできるできないで区切ってしまうと、仕事の切り出しの余地が少なくなる恐れがあります。職種で考えるのではなく、仕事の工程をルーチン化できるかどうかの視点で考えることが重要です。
体をつかった作業
経度知的障害者は体をつかった仕事全般に対して、能力を発揮しやすい傾向があります。
背景として、軽度知的障害者向けの特別支援学校や訓練校などが充実してきていることが挙げられます。特別支援教育を受けている場合、それぞれの職業学科で体を使って能力を体得していくという工程に慣れています。そのため、健常者よりも体をつかった仕事に積極的である方は少なくないです。
こちらは、採用に当たって知的障害者にどのような力を期待するかを特例子会社に取ったアンケートです。

仕事への意欲は、能力以上に採用時に重視される項目です。頭にとめておきましょう。
また、精神障害者や身体障害者に比べ、精神的な変動や肉体的な制限が少ない点も強みです。障害者雇用で体をつかった仕事を任せる場合は軽度知的障害者にやってもらいたいという企業が多い印象を受けます。
軽度知的障害が働く上で注意すべき点
次に、軽度知的障害者が働く上で注意した方が良い点を紹介していきます。
家族や支援機関のかかわりがあった方が良い
軽度知的障害者のなかには、「健常者並みかそれ以上に頑張っている」と企業から評価を受けている方もいます。
とはいえ、客観的な目線でものごとが見れずに、トラブルに発展するケースも珍しくありません。社員からささいな指摘を受けた際にも「いじめを受けた」、「自分のことが嫌いなんだ」と一方的な捉え方をしてしまう方も少なくないです
こういった場合、本人と社員だけで対応しようとすると余計にこじれてしまい、行き詰まりになるケースが想定されます。
そのため、家族や支援機関があいだにクッションとして入り、本人のストレス緩和や企業側への助言が必要となる場合があります。支援機関の場合は企業訪問を通して、直接介入してくれますので、利用を検討してみてください。
→障害者就業・生活支援センターとは障害者雇用の何でも屋!働くを楽にするためのサービス内容を総まとめ!
就労移行支援事業所を経由して就職すると、最大3年半ものあいだ職場定着支援を受けることができるのでオススメです。


指示担当者は一人にしぼってもらう
先にも述べた通り、軽度知的障害者は臨機応変な対応を障害上、苦手としています。
そのため、職場内の指示担当者は一人にしぼってもらうことを勧めます。指示出しをする人が複数いると、細かな指示のニュアンスのずれが生じる場合があります。
以下が実際の例です。

よくある仕事の指示の食い違いですね。職場担当者が複数人いると、こういったことが日常茶飯事です。
「そりゃあ迷うよな…」
と支援者である私も感じることが多いです。職場担当者も悪気なく指示を出しており、本人がすでに指示を出されているかを知らない場合も多いです。
自分で伝達状況を共有できる方ならいいですが、それが難しければ就業前に担当者はしぼってもらった方が良いでしょう。
仕事を構造化・視覚化する
最後に紹介する軽度知的障害者が働く上での注意点は、仕事の構造化・視覚化です。
軽度知的障害者は複数の工程にまたがった仕事や抽象的な仕事を苦手としています。
そのため、工程が複雑な仕事では、段取りをマニュアル化してもらうなどの配慮が必要です。その際は、人によって解釈が異なる表現(「しっかりと」「きれいに」など)を避けてもらいましょう。
誰が見ても完成形がわかるように、写真を用いるなどの視覚化配慮も必要でしょう。
この構造化・視覚化の配慮は深いテーマになりますので、もし希望があれば別の記事で取り上げたいと思います。
企業側がマニュアルなどを作成する余裕が無い、本人に伝えられる自信が無い場合は、地域の障害者職業センターのジョブコーチ制度を活用する手段もあります。ジョブコーチに企業へ介入してもらい、マニュアルや指示系統の整理をしてもらっても良いかもしれません。
→独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援
軽度知的障害が仕事を頑張ることでもたらすメリット

最後に、軽度知的障害者が働くと本人・家族・企業にどのようなメリットがあるのかを紹介していきます。
本人の自信向上・社会的自立につながる
軽度知的障害者が仕事を頑張るメリットとして、自信向上と社会的自立が挙げられます。
軽度知的障害者は支援学級や障害年金などの制度を通して、「見守られる・守られる」という立場におかれることが多いです。そのため、社会人として役割を任され、仕事をこなしたことの喜びは、人一倍感じる方が多いです。
障害者に限りませんが、仕事をこなしての「ありがとう」の積み重ねは大きな成功体験となるでしょう。
そして、給与と障害年金を組め合わせた収入によって経済的自立を果たすことも可能です。そこから転じて、グループホームなどの生活をはじめたり、一人暮らしを始める方も多いです。こうした社会的な自立を果たせることも仕事を頑張ることのメリットでしょう。
障害者雇用のノウハウがつみあがる
次に軽度知的障害者が仕事を頑張るとしてメリットは、障害者雇用のノウハウが企業側につみあがる点です。
はじめて障害者を雇用する場合、企業側にとっては育成・人的なコストだけでなく、各種配慮事項を調整するための時間的コストもかかります。これだけ書くと企業側にとっては、手間がかかると思われるかもしれません。
しかし、押さえておきたいポイントとしては、一度くみ上げた支援ツールや雇用経験は、次に障害者を雇用する際も確実に活かすことができるということです。
私たち支援者がいくら介入しても、障害者本人と一番接する時間が長いのは企業担当者になります。本人たちとの関わりの中で、雇用経験を積み重ねていけば、職場担当者自身が職場内支援者として機能することだってできます。
職場全体に活気が生まれる
最後に紹介する軽度知的障害者が働くメリットは、職場全体に活気が生まれやすくなる点です。
障害を持ちながらも仕事に励む姿勢は、既存の社員に対して、勇気を与えるだけでなく自身も頑張らなければならないというカンフル剤の効果があります。
私も特別支援学校在籍の障害者に話をする際、「みなさんの働く姿勢が会社に喜びを与えます」という話をしますが、これはそういった理由からです。
私たち健常者がいくら頑張っても、なかなか活気を生み出す効果を与えることは難しいです。また、障害者にやさしい会社は得てして健常者にもやさしい環境であることが多いです。
結果的に、働きやすさの観点から企業イメージの向上にもつなげることができます。
まとめ
- 軽度知的障害者はIQ51~70の範囲とされ、見通しをつけることに障害がある
- ルーチン化できる仕事、体をつかった仕事に適性がある
- 外部機関の利用や、職場担当者をしぼることでより戦力として働ける
- 働くことで本人の自信向上につながるだけでなく、企業側にもメリットがある
いかがでしたでしょうか?
軽度知的障害者の一般就労は可能であるだけではなく、数多くの魅力があることが分かったかと思います。
ぜひ、今回の記事を参考にして就職活動や雇用管理に励んでもらえればうれしいです。
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